重要な法令、裁判例

法律の根拠

マクリーン事件(1978年最高裁判決)

 アメリカ人のマクリーンさんが在留期間の更新を申請したが、不許可となった事件。在留中に転職したことを届出なかったり法案や条約に反対するデモに参加したりしたことが素行要件や国益に反するというものでした。最高裁判決は、「憲法に規定する人権については外国人にも等しく保証されるが、在留することを求める権利まで保証されているわけではない。在留を許可するかどうかは法務大臣の裁量に任されており、法務大臣がその裁量権を逸脱・乱用しない限りは法務大臣の判断は相当」と結論づけました。

 この事件は今でも入管管理局の処分の在り方に強く影響していると考えられ、申請が認められるかどうかはこの裁量権に委ねられることになります。現在では様々な裁量基準(ガイドライン)が公開されていますので、申請が許可されない要件が何かを事前に調べた上で準備を進めることが大切です。

行政手続法 第5条1項、3項(審査基準)

1項条文:行政庁は、審査基準を定めるものとする。
3項条文:行政庁は、行政上特別の支障があるときを除き、法令により申請の提出先とされている機関の事務所に置ける備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。

 行政庁に認められている裁量の範囲は無制限ではありません。入管管理局は裁量基準(ガイドライン)のほかに「審査要領」にしたがって許認可の判断を下しているので、それらを事前に確認することによって申請が無事に許可されるかどうか見通せるようになっています。

行政手続法 第8条1項(申請拒否処分の理由提示)

条文:行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に当該処分の理由を示さなければならない。

 もし、申請が許可されなかった場合は、その理由を同時に確認することができます。再申請することによって許可が下りるか否か判断しやすくなっています。

行政手続法 第9条2項(情報の提供)

条文:行政庁は、申請をしようとする者または申請者の求めに応じ、申請書の記載及び添付書類に関する事項その他申請に必要な情報の提供に努めなければならない。

 申請者は、手続きに自信がない場合は誰に相談したら良いか。行政書士等の専門家ということになりますが、先ずは入管管理局の職員に確認することができます。彼らは、申請者から問い合わせがあった場合は適切に応える努めがあります。

入管法 第1条(目的)

条文:この法律は、本邦に入国し、又は本邦から出国する全ての人の出入国及び本邦に在留する全ての外国人の在留の公正な管理を図るとともに難民の認定手続を整備することを目的とする。

 第1条アンダーラインには次のような背景があります。すなわち、外国人が在留する目的が多様化し、また在留する期間が長期化し永住者も年々増加している。このような中長期在留者を入国時に厳格に管理するだけではなく「日本社会での生活者」として捉えて日本人と共生する社会をより深化させ、また不法就労・不法滞在が増加している状況を改善するための「公正な管理」を行うことが重要になっているということです。
 このような背景を踏まえ、政府として「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を打ち出し将来設計(対応策は191項目にも及んでいる)を立てました。これらを入管庁・関係省庁・地方自治体等で連携・協力をしサポート体制を具体化する段階にあります。
 我々行政書士としても、これら対応策がどこまで具体化されているのかを抑え、入国管理に関する専門的知識だけでなく、職業生活上/日常生活上/社会生活上の必要な知識にも精通すべく研鑽を重ね、日本で安全に安心して生活できるよう多面的にサポートする役割が期待されていると思います。

入管法 第26条(再入国の許可)

条文:日本に在留する外国人がその在留期間の満了の日以前に再び入国する意図をもって出国しようとするときは、再入国の許可を与えることができる
 つまり、在留する外国人に対し、「与えなければならない」とはなっておらず、再入国の自由を無条件では認めていないという点に注意する必要があります。次の「森川キャサリーン事件」にその意図を伺い知ることができます。

森川キャサリーン事件(1992年最高裁判決)

 日本人と結婚して日本に在留していたキャサリーンさんが、海外旅行を計画し再入国許可の申請をしたが不許可となった事件。当時外国人登録法により求められていた指紋押捺を拒否し罰則を受けていたことが不許可の理由となった。最高裁の判決によると、「外国人に入国を自由に認めていないのと同様、再入国の自由も当然の権利として保障するものではない」としている。
 法律を遵守せず、日常生活において素行善良性に欠ける状況が認められる場合は不許可となる可能性があるということを認識しておかなければなりません。
 なお、外国人に対する指紋押捺についてはプライバシーを侵害するとして一旦は廃止されましたが、現在はテロ対策を目的に必要最小限の範囲で指紋等の個人識別情報を提供することが義務づけられています。